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京都家庭裁判所 昭和56年(少)4779号 決定

少年 N・S(昭三七・一・三生)

主文

この事件について少年を保護処分に付さない。

理由

一  非行事実及び適条

司法警察員作成の少年事件送致書記載の犯罪事実と同一であるからこれを引用する。

刑法二一一条前段

二  不処分理由

1  本件は、当裁判所において、昭和五六年九月一八日少年法二〇条による検察官送致決定をなしたところ、検察官から「送致後の情況により訴追を相当でないと思料する。」として、「一 相手車両運転者が、左方の安全不確認により、既に略式命令を受け、同命令が確定した。二 本件被害者は、被疑者の友人であり、積極的に被疑者の寛大処分を望んでいる。」との理由を付して、同法四五条五号但書に基づいて、再送致されたものである。

2  しかしながら、検察官の再送致理由の一は、「相手車両運転者が、左方の安全不確認により既に略式命令を受け、同命令が確定した。」というにあるが、衝突事故において、双方過失のある場合、その一方が刑事処分を受けるのは当然のことである。

次の理由の二は、「本件被害者は、被害者の友人であり、積極的に被疑者の寛大処分を望んでいる。」というにあるが、この点については、既に前回送致の際、一件記録上明白な事実(Aの昭和五五年八月一三日付司法警察員に対する供述調書七項)であつて、事情の変更とは認められない。

従つて、以上の二点については、いずれも、これをもつて訴追を相当としない理由づけとしての「少年法四五条五号但書にいう送致後の状況」に当たると解すことはできない。

3  次に少年の交通関係の違反歴、処分歴などを検討すると、

(一)  昭和五三年九月二四日第二種原動機付自転車による速度違反(二三キロ超過)

同五四年五月二一日検察官送致(納付指示八回に応じないため)

(二)  昭和五四年六月一三日資格外運転(自動二輪免許のみで軽四輪貨物自動車運転)

同五五年二月五日検察官送致(五回の呼出しに対しいずれも不出頭のため)

(三)  昭和五四年一〇月一六日業務上過失傷害

同五五年一〇月一日交通短期保護観察

同五六年三月一九日同上解除(指定講習日に二日欠席)

がある。

少年は以上の如き交通非行歴を有し、かつ、家裁の指示或いは呼出しに容易に応じようとせず、保護観察所の指導にものりにくい態度が認められるので、少年に対しては保護処分による指導効果は、期待できないものと考えられる。

4  以上のとおりであるから、少年の年齢が現在一九歳九ヶ月であることも考えると、当裁判所は、本件については、なお少年を刑事処分に付するのを相当と認めた前回の判断を変更する必要を認め難いが、家庭裁判所と検察官の判断の相違によつて、更に手続が遅延することは好ましくないと考えられるし、また、昨年八月の本件非行以来現在まで少年に交通非行がなく、反省の情も認められるので、敢えて再度の検察官送致はしないこととし、少年法二三条二項により厳重訓戒のうえ、保護的措置として主文のとおり決定する。

(裁判官 白川清吉)

〔参考〕 司法警察員作成にかかる送致書記載の被疑事実の要旨中の過失の内容

交差点を前車が左折するため左の方向指示器を出して徐行しているのであるから前車の左折をまつ等その動静を注視して進行する注意義務があるのに相手の方向指示器や動静を確認せず漫然その左側を追抜こうとした過失により相手が左折していることをその後方三・五メートルに至つて発見し急制動の措置を講じようとしたが及ばず側面衝突。

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